低空飛行の航空日誌

何かあったことをつらつらと気の向くままに

端末の不具合を自分で直すときに絡む、技術適合認証のお話

タブレットスマートフォン(もしかすると最近のノートパソコンも含まれるかも)の修理を自分でやってみようというときに必ず絡む、それら端末の技術適合認証のお話を自分なりに調べてみました。
非常に長文ですがもしお役に立てれば幸いです。

なんでこんなの書こうと思ったのか

コード10の悪名高きエラーをよく出すASUS Vivotab Note 8を自分で修理するという記事があり、読んでいた。
 
 
このうちPC Watchの記事の末尾に、このような注意書きが追記されていたのがその発端。
タブレットなどの製品を分解した後に無線機能を利用すると電波法違反となるとの指摘を読者の方よりいただきました。記事内容について、この点への配慮が欠けていた点をお詫びいたします。
保証期間が切れたにもかかわらず、実際には簡単なこの手の修理を自分で行うことはできないのは、ユーザーとしてはかなり理不尽なことではないだろうか?と思ったのだ。
 
ちなみにこの不具合は非常に多く報告されている有名な話で、元が安いんだしダメになったらポンポン買い替えればそれでいいじゃないか、というのはこの場合違う話だと感じる。
誰しも元値が安いのに修理代ばかりかけたくないだろうし、そんな不具合が出ると考えられる設計なのにそのまま量産してしまい、発売開始から1年以上経つ今でも改善が見られないようなメーカーの倫理観を疑いたくもなるだろう(後者は結果論だけども)。
この製品は持っていないが、私だってそんな中の一人だ。 
これを少しずつ読み解いてみたい。

なぜ分解後に無線機能を使うと、電波法違反になるの?

分解すると、端末に付与されている技適マークが無効になる。
たとえ技適マークが残っていても、それが無効となった端末で電波の送受信をすることは電波法で禁じられているので、結果として電波法違反となる。

分解そのものが違法なのではない。分解後も残っているが無効となった技適マークがついた端末でWiFiBluetooth機能を使うことが違法なのである。

分解後に技適マークが無効になるのは、どうして?

まず技適マークを付与する認証制度に触れる必要がある。
この認証制度は3通りのパターンがあり、それぞれ次のようになっている。

  • 技術基準適合証明
    無線機能を使用する機器について、製造した機器1台ずつ全数に対して各種検査を行う制度。
    個人の手によるアマチュア無線の自作無線機や、メーカーが研究開発等の目的で試験的に作成した機器がこの制度を使用する。
    検査は機器製造後に行われる。
  • 工事設計認証
    メーカー向けの制度。
    検査が機器製造前に行われ、かつ検査結果が製造後の特定の機種すべてに適用されるのが特徴。
    これから量産する機器について、その機器の各種設計(主に回路図、使用部品)や製造等の取扱いの段階における品質管理方法、さらにサンプル端末(1台で可)から得られた電波関連の試験結果から、生産予定のすべての機器が検査結果に合格しているかどうかを検査する。
    複数の機種を生産する場合は、各機種で1台のサンプル端末を用意して電波関連の試験を行えばよい。
  • 技術基準適合自己確認
    輸入業者向けで、特定の種別の機器に対してのみ適用できる制度。
    海外で設計、生産され、輸入して販売しようとするような機器について、工事設計認証と同等の内容を輸入業者が自ら審査し、その内容を申請する。

(出典:http://www.ciaj.or.jp/jp/wp-content/uploads_sec/2015/10/CI1-011.pdf 9~11ページ)

タブレット端末は、このうちで工事設計認証で技適マークを得てから発売されている。
先ほど触れたように、工事設計認証では「製造等の取扱い段階における品質管理方法」まで含めて審査されているので、通常の製品保証内容に、電波を合法的に使用する許可が上乗せされていることがわかる。

通常の製品保証は、分解すると無効になるのが常だ。これは、ユーザーを含む第三者に分解、再組立てされた時点で、製造時にメーカーが独自に定めた品質管理規定から外れてしまうためである。
そもそも製品保証というのは、
「私たちメーカーが定めた製造から出荷前の検査まで含めた品質管理に則った形で使っているのであれば、一定期間正常に稼働することを保証しますよ」
というものなので、勝手に分解すればその規定から外れることは想像に難くない。

実はこれと同じ理屈で、技適マークが無効になる。これはどういうことかというと、
「メーカーの品質管理規定から逸れるのであれば、それは工事設計認証で承認されていない手順が加わったことになる。誰の手によるものかは関係ない。国はこの事実に対して、該当する機器の技適マークを(表示が残っていても)無効にする」
というものである。
承認されていない手順が加わっているのなら、その機器で使用される電波は国が定めた基準に適合しないだろうから、そんな機器では電波を使ってはいけません、としているだけのことである。

法律上で分解することはどう定められているのか

タブレット端末に限らず、WiFiBluetoothを使用する電子機器はすべて、電波法で無線設備という定義に該当する。
 電波法
 電波法第二条第四項
 「無線設備」とは、無線電信、無線電話その他電波を送り、又は受けるための電気的設備をいう。

この無線設備には、機器の要件を定めた総務省無線設備規則というものがある。
同規則では、無線設備から発射される電波の質や強さなど、技術的に込み入った内容の定義が、種々の機器に対してそれぞれ異なる内容で行われている。
WiFiBluetooth機能だけを搭載したタブレット端末は、同規則では「小電力データ通信システム」に該当する。
その定義から分解に関係する重要なところを見てみよう。

無線設備規則

第四十九条の二十  小電力データ通信システムの無線局の無線設備は、次の各号の区別に従い、それぞれに掲げる条件に適合するものでなければならない。
一  二、四〇〇MHz以上二、四八三・五MHz以下の周波数の電波を使用するもの
 イ 空中線系を除く高周波部及び変調部は、容易に開けることができないこと。
(以下、本題と逸れるため省略)
二  二、四七一MHz以上二、四九七MHz以下の周波数の電波を使用するもの
 イ 空中線系を除く高周波部及び変調部は、容易に開けることができないこと。
(以下省略)
三  五、一五〇MHzを超え五、三五〇MHz以下の周波数の電波を使用するもの(屋内その他電波の遮蔽効果が屋内と同等の場所であつて、施行規則第六条第四項第四号(3)の告示で定める場所において使用するものに限る。)
 イ 空中線系を除く高周波部及び変調部は、容易に開けることができないこと。
(以下省略)
四  五、四七〇MHzを超え五、七二五MHz以下の周波数の電波を使用するもの(上空にあつては、航空機内で運用する場合に限る。)
 イ 前号イ、ロ、ヘ、リ及びヌに掲げる条件に適合すること。

ここで、802.11a/b/g/n/acと、Bluetoothの使用帯域は次の通りとなっている。単位はいずれもMHzである。

  • 802.11b/g/n
    2401~2483(ch1~11)、2473~2495(ch14)
  • 802.11a/n/ac
    5170~5330(ch36~64)、5490~5710(ch100~140)
  • Bluetooth
    2402~2480

(出典:長距離無線LANシステム FalconWAVE 無線LAN規格の違い|DENGYOIEEE802.11a 無線LANBluetooth Radio Interface, Modulation & Channels :: Radio-Electronics.com

これらのことから、第一号と二号は802.11b/g/nおよびBluetooth(ただし第二号は802.11bのch14のみ)、第三号と四号は802.11a/n/acに適合することがわかる。
タブレット本体のカバー(裏蓋など)は直接「高周波部および変調部」を覆うものではないから、それら部位を容易に開けることができないことという条件は満足できる。
しかし工事設計認証の趣旨や要件に反する*1ので、技適マークは無効になるという認識のようである。

コラム:街にある携帯修理業者に、故障した携帯電話を出すとどうなるの

携帯電話もほぼ同様の要件で無線設備規則に定義されている上、工事設計認証で技適マークを得ている点もまったく同様であることを考えると、

「分解と再組立ては自由だが、その後は残った技適マークはやはり無効になる。したがって、それらの場所で修理後は合法的に携帯電話としての利用はできなくなる」

という形になる。キャリアショップの修理受付に出した場合はメーカーで修理等の対応が行われるので、こうした心配はない。

なお、この場合はユーザーではなくキャリアが電波法違反の責を問われることとなる。
詳細は免許制度が絡む話で本筋から逸れるため、解説は省略する。

もし分解などをして、それでも法に完全に従うのならば

このためには、国で指定された機関に依頼して、再度国の認証を得なくてはならない。
この場合、認証を受ける端末は一台のみなので、技術基準適合証明を取ることになる。
ではここで、代表的な証明機関である一般財団法人 テレコムエンジニアリングセンターでの手続きを見てみよう。 
そこそこ読んだ時点で、まず個人には到底無理に近いのが一目でわかるはずだ。
もしこれを見て「ここはこうすればいい、この書類はこれだ」などとわかるならぜひやってみてほしい。
そしてその成否や経過をすべてインターネットで発信しよう。それだけで一大コンテンツになるはずだ。ただあまりに高度すぎて、途中で挫折してしまうのが目に見えているのは私だけだろうか…。

*1:実はこの点に関して明記したものが見つからないので運用の実態からの推測